イジワル王子の甘い嘘
最初にこの高校を受験すると決めたのは、私だった。
中学でも散々言われた“愛斗くんの幼なじみ”を脱出するために、わざわざバス通学になる家から少し遠いこの高校を選んだのに。
なぜか愛斗くんは、一般受験の私より先に、スポーツ推薦でこの高校に入学することが決まっていた。
受験する高校を変えようかと思ったけど、その時にはもう志望校を変えることなんて出来なくて。
気が付けば、私は愛斗くんと同じ高校に通っていた。
唯一の救いと言えば、愛斗くんとはクラスが違うこと。
だから学校では極力顔を合わせないようにしているし、愛斗くんの気配を感じたら逃げるようにしている。
これが唯一の私に出来る、“学校の王子様”を避ける方法。
「あ、噂をすれば王子の登場だー!」
「ほんとだ!ジャージ着てるってことは今から体育かな?」
「クールで爽やかでかっこいい!」
さっき、私の悪口を言っていた女子たちが、廊下を見て騒ぎ出した。
話の内容から、きっと愛斗くんが廊下を通るに違いない。
私は慌てて開いていた文庫本で顔を隠し、愛斗くんから見えないようにした。