もう一度、あなたと…
歩くのが遅くて皆について行けなかった私は、後で追うから…と一人残った。
でも、道に迷ってしまい、あやまって沢に落ちた。崖を登ろうにも足を挫いてしまって立ち上がれない。
登山道からどの位外れているかも分からないから、叫んでも無駄。
ケータイの電波は届かないし、どうすればいいのか分からず、途方に暮れていた。



『…このバカ!何やってんだ!』

沢に落ちてからどれくらいの時間が経ってたか知らないけど、崖の上から声がした。木の枝を伝って下りてくる。
それが「杉野太一」だった。

彼はいつまで経ってもやって来ない私を散々探し回ったらしい。いつも以上の口の悪さで、ガミガミと怒鳴り上げた。

『タダでさえ足が遅くてノロマなくせに、なんで自分だけ後から行くなんて言うんだ!お前みたいな奴はメーワクだ!とっととサークル辞めちまえ!』

心細くてたまらなかったのに、浴びせられる言葉は酷いものばかりで落ち込んだ。
ぐすぐす…と泣き出す私を見て、さすがの太一も口を閉ざした。

腫れ上がってる私の右足に気づき、靴を脱がす。
ゆっくりと靴下を脱がせると、持っていたタオルを水に濡らして戻って来た。

『こうして冷やしとけ』

足首に巻いて側を離れる。
落ちてる木の小枝を集め、器用に火を焚きつけ狼煙を上げた。
居場所を知らせる為の合図。それを基本通りに済ませて戻って来た。


『……さっきは悪かった…』

タオルを外して足首を触る。真っ赤に腫れた患部を見て、『痛そうだな…』と呟いた。


『あの…杉野くん…』

初めてに近いくらいの感覚で名前を呼んだ。
彼の視線がこっちを向く。いつもと違う優しい眼差し。
こんな優しい顔もできるんだ…と、初めて知った。

言葉も忘れてお互い顔を見た。これまでまともに、見たこともなかった…。


『…あっ!いたっ!!』

サークル仲間の声がして振り向いた。私が落ちてきた崖の上から、先輩や同級生が顔を覗かしてる。

『大丈夫⁉︎ ケガない⁉︎ 』

部長の声がする。

『高橋、足首捻挫してます!自力で上がるのは無理っす!』

太一の声で皆が協力し合う。
私を背負って彼が崖を上る。それを皆が引っ張り上げた。

『皆さんすみません!ありがとうございます!』

道に戻って頭を下げた。今回はすぐに見つかったから良かったけど、これが冬山だと大変なことになるとこだった…。

メーワクだと言われた意味を噛み締めて下山する。
『ついでだから…』と誰にも替わらず、太一はずっと私を背負ってくれていた。
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