もう一度、あなたと…
『…さっき言ったこと…本気にしなくていいからな…』

ボソッと囁くように言われた。
頭の後ろから彼を見る。少しだけ、顔が赤いような気がした。

『無事だったから安心して声張り上げただけだから。…本気にして辞めんなよ。…お前がいねーとつまんねーから…』

言われてる意味が分からず、取りあえず「うん…」と答えた。
太一の背中は温かで力強くて、何もかも包み込んでくれるような広さで、すごくホッとしたのを覚えてる。
それから一週間後のサークルの集まりで、太一に告られたんだ。



『好きだ…付き合ってくれ』

いきなり何を言うのかと、目が点になった。怒ってるような顔してたから、本気なのかと疑った。

『…いいけど…』

断る理由なんか特になかった。
あの下山の最中に言ってくれた、言葉の意味も分かった……


(…あのまま同棲しちゃって、卒業と同時に結婚しようってことになって、バタバタ親に会わせてゴールイン。今思えば、ホント子供だったよね。…私も…太一も……)

資料説明してる彼を見る。
この所の私達は倦怠期で、お互い一緒に暮らしてても、顔を合わせることの方が少なかった。

夫婦一緒にいる時間は長いようで短い。
太一のことも知ってるようで、ホントは何も分かってなかったのかもしれない…。


『次、健康保険証について杉野君から説明してもらう』

ハッとして前を見る。早く来いと言わんばかりの顔。あたふた…と駆けつけた。

太一の横に並ぶと、新人の一人が手を挙げた。

『あの…お二人は夫婦ですか?』

興味深そうな眼差しが集まる。太一と二人、視線を合わせた。

『…今はそんな陳腐な質問に答える時間じゃねぇ!後からにしろ!』

おっかない顔して答える。質問した女の子も、ショボン…と肩を落とした。

(あーあ…また強面全開にしちゃって…恐れられても知らないんだから…)

横目で太一を眺めて説明を始める。一通り説明し終わってから質問がないか聞いてみた。

『なにか分からない点とか…ありますか?』

室内にいる二十名ほどの新人職員の顔を見る。
そのうちの一人が手を挙げた。

『はい!質問!』

とびきりの笑顔で立ち上がる、「たからがひかる」に注目が集まった。


『さっきの…お二人は夫婦ですか?の問いにプラスして…夫婦生活は週何回くらいしてますか?』

ドッと笑いが起こる。顔の引きつる私とは反対に、太一はニヤリと笑った。

『いい質問だ。後でじっくり答えてやるから総務課長のデスクまで来い!』

シ…ンとして静まり返る。太一が言うと、冗談には聞こえないらしい。
< 11 / 90 >

この作品をシェア

pagetop