もう一度、あなたと…
『…どうしてあんな言い方するの⁉︎ 相手は新人よ⁉︎ もう少し気を配って話せばいいのに…』

前を歩く太一に向かって言った。
オリエンテーションが終わり、部署に歩いて帰ってるところだった。
無言のまま答えようともしない太一に溜め息をつく。
この最近の彼は、こんなことが増えていた。

『…ねぇ、太一!』

私の声に反応して振り向く。壁に背中を押し付けられて、怖い顔して凄まれた。

『いいか⁉︎ あの場で夫婦だって言ったら、時間通りにオリエンテーションは終わんなかったぞ⁉︎ お前もバカじゃねーなら、それ位気づけよ!』

いつもと同じ様な接し方。これが怖くて妻なんてやってられない。

『バカでも何でも、話し方ってもんがあるって言ってんの!ムダに新人いびりすんのやめて!皆が怖がるから!』

太一が人一倍優しいことは知ってる。私はこの人のことを、周りに誤解して欲しくないだけだ。

お互い顔近づけての睨み合い。色気も何もありゃしない。

『……お前は言っても聞かねー奴だな!その件については、家でじっくり話し合おうぜ!』

一方的に終わらせる。家で…と言って、本当に話したこともない。

『わ…分かりました…』

一応引き下がる。でも、同じ事したらまた言うからね。


そんな感じで、「たからがひかる」との初日の対面は終わった。
ずっと後になってから聞いたことだけど、あの後、彼はホントに聞きにきたらしい。
…私達の夫婦生活が、週に何回あるか……をーーーー。





(ーーー要は、その程度の付き合いを会社でしてただけだと思うのに…どうして…結婚なんて……)

手を目の前にかざして見る。
袖口にも小さなビーズが光ってる。
このウエディングドレスは、相当細い所にまで、手が加えられているんだと知った。

(こんなステキなドレスで、しかも相手はあの「ヒカルの君」で、これが夢じゃなきゃ…一体何なの…⁉︎ …夢以外に…思えないじゃない…)


目を閉じて思い出す。
太一との記念写真を撮った日のこと。
そう…あの日に、私は戻りたかったんだーーーーー

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