もう一度、あなたと…
翌朝、リビングに行ってみると「たからがひかる」の姿はなかった。
枕と布団はキチンと畳まれ、ソファの上に置いてるにもかかわらず、本人はその場にいない。

(もしかして…出て行ったとか…?)

昨日も一昨日も彼を拒否した。
そんな私といなくてもいいと思ったのかも…。

(でも、たった二日で…⁉︎ )

まさか…と思いながら、和室の方へ行った。
やっぱりいない彼の姿を追い求めて、苦手なベランダへ足を運んだ。
外の景色に息を呑みながら、必至で下を眺める。
駐車場の中に、昨日運転してもらったものと同じ車があるのを発見する。
車があるって事は、遠くには行ってないってことだ…。

(じゃあどこへ…?)

不安になりながらも、慣れない高さに目眩がする。
そのまま動けなくなって、ボンヤリと空を仰いだ。

(私がここからの景色を気に入った…って、言ったわよね…)

流れる雲を見つめながら、昨日、二人で見た景色を思い出した。
一人でいる今は高さに怯えて頭がクラクラする程なのに、どうして昨日は平気だったんだろう…。

二人でいる…という事の意味を思い知らされる。
あれ程、彼を拒否した私なのに…。

(…お願い…早く帰って来て…!)

膝を抱えてうずくまる。
身動き一つできない自分の肩に、誰かが触れた。

「エリカ、何やってんだ⁉︎ …かくれんぼか⁉︎ 」

顔を覗き込む人の声に振り向く。
目を丸くしたまま声も出せずにいる私の顔を見て、頭を撫でた。

「…トイレから出てきたら、窓が開いてるから不思議に思って。お前、よく一人で外へ出られたな」

高い所苦手だろ…と笑われる。
「26才のエリカ」と「32才の自分」がリンクする。
そして…多分、思いが重なった。

「……ひかる!」

ぎゅっと彼に抱きついた。
怖さと安心が入り混じる。
彼に抱きついてさえいれば、怖さは治まる。…そう思った。

「エリカ…」

驚いた彼が戸惑う。その彼に不安をぶつけた。

「バカ…!なんでトイレなんかにこもってるのよ!ビックリしたじゃない!」



………一人きりにされた太一の実家での夜を思い出した。
帰って来ない彼を、寝ずにずっと待っていた。
最後の夜くらい…一緒にいて欲しかった……。



「一人になんかしたらイヤ!怖いから!」

夢と現実が見境つかなくなる。
軽いパニックを起こしてる私に気づいて、「たからがひかる」が抱き上げた。

「分かった、ごめん…」

宥めるように部屋に入って行く。ソファに畳んだ布団を背中に押し当てられ、横にならされた。

「ほら、深呼吸して」

胸の上に手を置き、ゆっくりと吸って吐いて…と指示を繰り返す。その声に合わせて、大きく息を吸い込んで吐きだした。
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