もう一度、あなたと…
4月1日の入社式で「たからがひかる」は新入社員代表の決意表明を行った。

総務部長が名前を読み上げる。
それを聞いて、あの履歴書のことを思い出した。

『新入社員代表 宝田光琉!』
(んっ⁉︎ タカラダ……?)

あのクセ字の人か…と壇上を見上げた。背の高い、肩幅の広い人が階段を上っていく。社長と向かい合って礼を交わす。
決意を書いた紙を広げ、大きく息を吸い込んだ。

『決意表明……我々、新規採用者は社訓に則り、御社のますますの発展と継続に力を尽くして参ります…』

ハッキリとした滑舌のいい声は、聞いててシビれるものがあった。
当然、そう思ったのは私だけではなく……

『ねぇねぇ…ちょっといい声だと思わない?』

隣に立ってた同じ課の佐藤 舞(さとう まい)が言った。

『うん…まぁね』

壇上の背中を見たまま答える。紙を封書に収めた彼が振り返る。
その瞬間、女子達から溜め息が漏れた。

『はぁ…』
『ステキ…』
『美形…』
『カッコイイ…』
『何⁉︎ 彼ってハーフか何か…⁉︎ 』

若い子は勿論、お局クラスからも漏れてくる。
初めて見る「たからがひかる」は、正しく「光る宝」のような美形で、その甘いマスクに女子達はいっぺんで釘付けになった。

入社式は、その後も社長の訓示や新年度の方針などの説明があったけど、皆それどころじゃなくなって、こそこそひそひそ…と彼の噂ばかりして、終わる頃には女子の大半が彼のファン…という、異常事態にまで発展した。


『あーあ…羨ましいなぁ…エリカ』
『…何が?』

入社式の後、次の仕事に向けて準備してるとこだった。

『だって、社員管理の仕事してたら「ヒカルの君」と話すチャンスもきっとあるでしょ?』

早速ニックネームまでついてる。目立つ存在っていうのは、気の毒なものだ。

『うん…多分ね』

実際、これから始まるオリエンテーションで、新規採用者に向け、住民票の写しだの健康保険証の話だのをしなくちゃならない。
個別に話すこともあるし、きっと事務手続きとかで会うことも多くなる。
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