もう一度、あなたと…
「…たださ、着いた途端、あれはなかったよな…」

呆れたような口調になる彼の顔を、思わず見直した。

「いきなりゲー…って吐き出してさ。参ったのなんのって…」

笑い飛ばす。
自分と彼が上着を脱いでた理由が分かって、急に恥ずかしくなった。

「高橋さん、気持ち悪いって自分で勝手に服脱ぎ出すし、こっちはマトモにゲロ被るし…結構大変だったんですよ⁉︎ 」

困った顔もせずに笑って過ごそうとしてる。
そんな姿を見て、自分が許せなくなった…。

「すみません…本当に…ご迷惑をおかけしました……」

深々と頭を下げた。
勿論、それだけでは済まされない事も分かってる。

「汚したスーツは弁償させて頂きます。ホテル代も…私が支払いますから……」

恥ずかしさもどこかへ行ってしまった。
ひたすら低姿勢に謝る私を見つめ、「ひかるの君」は黙りこくった。


「…え…と…あの…別にそこまで責任感じて頂かなくても…」

恐縮しだす。
でも、もう後には引けないーーー

「いえっ!責任は取ります!…って言うか、取らせて下さい!」

年上の自分が、年下の彼に迷惑かけたことが許せない。
真剣に彼を見つめる私に息をついて、「ひかるの君」がこう言いだしたーーー。

「…じゃあ、明日、俺に付き合うってことで、手を打ちましょう」
「へっ…?」

何を言うのかと思った。
目を丸くしてる私に向かって、疑いたくなるような言葉を言った。

「デートしましょう。二人で!」
「…デート…?」

ますます目が丸くなる。にこやかな笑顔の「ひかるの君」は、スゴく真面目な顔で頷いた。

「連れて行きたい場所があるんです。この間のお詫びもあるし、そっちが責任感じてるなら、お互い様でしょう?」
「え…でも、私…」

バツイチで年上で、あなたとなんか、釣り合いもしないのに…と、喉元まで出かかった言葉を呑み込んだ。

「反論なしって事は、OKの意味で取っていいですよね⁉︎ じゃあ明日、9時にこの場所で」
「こ、この場所って…会社の前…?」
「そうですよ。俺、高橋さんの住んでる所、どこか知らないから」
「あ…」

そうか…。そう言えば、私も彼がどこに住んでるか知らなかった。

「で、でも…職場の前って言うのも変じゃない⁉︎ せめて、もう少し離れた場所にしない⁉︎ 」

休日出勤して来る人に見つかりたくない思いがあった。でも、彼はそんなの気にしない様子で…。

「大丈夫です!車で迎えに行くので、停められる場所があった方がいい」

それじゃあ…と歩き出す。
その背中をポカン…と眺め、我に返った。
< 74 / 90 >

この作品をシェア

pagetop