もう一度、あなたと…
『変わらない?仕事…』

伝票の束指差して舞が言う。彼女の仕事は経理事務。私が一番苦手な電卓とパソコン操作が主だ。

『パス!それ絶対ムリ!』

社員管理程度が適任。それ以上の能力なんて、私は持ち合わせてない。

『ちぇっ。つまんなーい!』

ぶちぶちいいながらも仕事を始める。商科大卒業の舞は、総務課の出世株。いずれは係長クラスに特進できる程の有能社員だ。

(私も仕事に取り掛かろう)

各自の名札と社員証。それからオリエンテーションの資料。全部を一つの箱に詰め、会議室へと向かった。



会議室のドアの前で暫し悩む。両手に箱を持ってるおかげで、ドアノブが握れない。
あと少し、せめて指先だけでも引っ掛からないものかと、悪戦苦闘していた。

『…何してんですか?』

生意気な口調で声をかけられた。振り返ると、そこには例の噂の君。「たからがひかる」が立っていた。

『ド…ドアノブが…』

あまりの眩しさに狼狽えた。両手に荷物を持ってる私を見て、彼がくすり…と笑った。

『開けるんですね?』
『は…はい!』

年下の子に丁寧な返事してしまった。『うん』で十分だったのに。

(これがオーラ…てやつ?)

前を避けると「たからがひかる」がドア開けてくれた。そのまま先に中に入った彼は、私が入る前にドアを閉めた。

『……えっ?』

一瞬、何が起こったのか分からなかった。ポカン…としてドアを見つめる。
てっきり開けてくれたのかと思ったのに、自分だけが入っていった。

(…何⁉︎ あの男!人をおちょくって…!)

ドアを足で蹴ろうとしたその瞬間、ス…とドアが開いて……

『イテッ!』

「たからがひかる」の左の脛に、私の蹴りがまともに当たった。
パンプスの跡がズボンに残る。
脛を摩りながら、彼がこっちを睨んだ。
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