もう一度、あなたと…
付き合い始めて半年経った頃、会社で初めて花見会があった。
その席で舞は、しみじみ私にこう言った…。

「いいな…エリカは…。あんな素敵なカレシがいて…」

隣のグループでお酒を飲むひかるを見てた。
彼のファンクラブは事実上解散。
舞は情報を集めるのもやめてしまってた。

「『ひかるの君』は誰のものにもならないと信じてたのに…まさか、エリカに持って行かれるとはね…」


退院祝いの日、タクシーを捕まえておこうとその場を離れた。
そこで、まさか私があんな失態をやらかすとは思ってなかった。

「そんな事になってるとは知らなくて、戻って来たら「ひかるの君」もエリカもいなくて、ビックリした!」

悪酔いした翌週、私がいつも通りだったから、何もなかったんだろう…と、タカを括ってたらしい。

「だってエリカは離婚したばっかで、杉野君とのやり直しを望んでたから…」

ドレスの選択を誤って、似合わない物を着てしまい後悔した。
それを抱え込んだまま、過ごしてた時間。
私がやり直したかったのは、太一との結婚じゃなくて、ドレスの選択の方だった…。

「入院中、気が弱くなってるだろうから、復縁させるいいチャンスだと思ってたのに…」

的はずれ…舞はそう言って舌を出した。

…あの時、ひかるがお見舞いに持って来てくれた紫陽花の花は、暫く病室に飾られた。
あの花を見る度に、何かを思い出しそうで思い出せなかった。
でも、香りに包まれてると、不思議と嫌な夢も見ず、よく眠れた。



「……私、夢の中で、ひかるの匂いを全く感じなかったの。記憶にもない事って、夢でもその通りなのよ…」

初めて彼と朝を迎えた日、そう言って胸に顔を埋めた。
うっすら汗の匂いがする身体に触れ、こんな感じだった…と、思い返した。



花見会から半年近く経った頃、ひかるは私に指輪を見せた。
薄い紫色に光る石は、彼の誕生石だと教えられた。

「普通は逆なんじゃない?」

そう聞くと、彼はそうかもな…と笑った。

「でも、これを身に付けてたら寂しくないだろ。いつでも俺が一緒にいるみたいで」

指に通されながら、あの日の夢を思い出した。
いつかあの時と同じ雰囲気のある教会で、鐘を鳴らす日が来ると信じられる。
その時も夢と同じように、彼と愛を誓い合いたい……。



「…ありがとう…ひかる…私のこと…一番に選んでくれて…」

指輪にキスして微笑んだ。
夢の中のように涙は溢れなかったけど、倍以上に嬉しくて、満たされた気持ちだったーーー。

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