俺様社長と秘密の契約
…いつの間に眠ってしまったのだろう。

昨夜、創に抱き締められたことまでは覚えている。が、しかし、その後の記憶が全くない。

今理子は、自分のベッドの中だ。

…。

理子は、右手に温もりを感じた。

うっすらと目を明け呟いた。

「…龍吾さん?」

「…」

理子の目を写ったのは、切なげな瞳で理子を見つめる創だった。

…龍吾の筈がない。理子は、昨夜、龍吾と別れたのだから。

また思い出してしまい、辛くなり、涙が溢れる。

こぼれ落ちた涙を、創は指のはらで、やさしく拭った。

理子はハッとして、創の手から逃れようとした。

だが、それは出来なかった。

「…泣かないで…私を彼だと思ってくれてもいい。笑ってくれ」

片手は握りしめたまま、創は理子を抱き締めて、泣きそうな声で言った。

…そんな事、出来るわけがない。創は龍吾じゃない。

声も、体も、匂いも、何一つ、一緒じゃない。

理子は何も言わず、ただすすり泣くしかなかった。

…。

それから1週間。

理子は、泣かなくなったが、笑顔も消えてしまった。無表情に、ただ、創の隣にいた。

この状態では、創の秘書なんて、出来るわけがない。

悩んだ創は、とりあえず、外に連れ出す事を優先した。

創に見立てられた綺麗な服を着て、とあるホテルのレストランに来ていた。
< 141 / 155 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop