俺様社長と秘密の契約
「……旨いな。理子さんはどうですか?」

「…」

創の言葉に答えることなく、ただ静かに食事をする。創はどうしていいかわからず、困ったような顔をした。

フォークとナイフを置いた理子は、水にてを伸ばした。

その時だった。

ウエイターが理子にぶつかってしまい、水が服にとんだ。

「も、申し訳ございません」

慌てながらウエイターがナプキンで拭こうとしたが、理子はそれを止めた。

「…大丈夫です。おきになさらないでください」

そう言った理子は、作り笑いをうっすら浮かべると。

「…少し、席をはずします」

そう言って、立ち上がると、お手洗いへ向かった。

大してこぼれていなかったが、軽くハンカチで拭いた理子は、鏡に写ったのは、自分を見て、大きな溜め息をついた。

…自分はこんなところで、何をしているのだろう?

もう一度溜め息をつくと、席に戻ろうと出たときだった。

理子は思わず後退り。きびすを返しお手洗いへ逃げようとした。

「…理子!」
「…」

…まさか、こんなところで龍吾に会うなんて、誰が想像しただろうか。

理子は、龍吾を見ることすら出来ず、ただ、背を向けていた。

「…いまどこにいる?」

龍吾の問いに答えられるはずもなく。背を向けたまま、微かに肩を震わせた。

…!?

そんな理子を後ろから龍吾がぎゅっと抱き締めた。

「…理子が無事ならそれでいい。話したくないなら話さなくていい。ただ、これだけは忘れるな。


…俺は理子を愛してる。


必ず迎えに行くから、もう少しだけ待っててくれ」

その後、龍吾は、理子の首筋に顔を埋めた。

鈍い痛みをおぼえた理子が驚き振り返ると、龍吾は優しい笑みを一瞬浮かべるとその場を去った。
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