俺様社長と秘密の契約
…。

まるで、時が止まったような…

いや、スローモーションで、時が過ぎていくのを感じていた。

そして次の瞬間、理子の悲鳴が聞こえたが、それ一瞬だった。

龍吾が左手でカミソリの刃を握りしめ、右手で理子を自分の方に引き寄せ、口を押さえた。

龍吾の咄嗟の行動に、創も身動きひとつしない。ただ、驚きの眼差しで龍吾を見た。

「…何もかも、穏便に済ませたい。あんたは仕事が出来る男だ。俺は、あんたと仕事がしたい」

「…さっさと、警察でもなんでも呼べばいい」

創は力なくそう言って、カミソリから手を離した。

「…さっさと会場に戻れ。マスコミから叩かれるだけで十分損害だ。俺は、理子が帰ってくればそれでいい」

そう言うと、理子の肩を抱き、カミソリはゴミ箱に捨てると、龍吾は左手を握りしめたまま、駐車場に向かった。

理子は、震えた手で、龍吾の左手を取ると、ハンカチで左手を縛った。

「…早く病院にいかない、と」

言い終わるか終わらないか、理子は龍吾に抱き締められていた。

「…龍吾さん」

「…もう離さないからな」
「…ごめ、なさい」

「…しばらく左手は使えそうにないから、たっぷり働いてもらうぞ」

その声に、理子が、顔をあげると、龍吾はフッと笑った。

…その後、創はマスコミにあることないこと書き立てられ、会社にも大きなダメージを受けた。だが、龍吾が何も言わなかったお陰で、会社を立て直すことに、そう時間はかからなかった。

龍吾の左手のケガも、数針縫っただけですみ、仕事の助手は全て理子がこなした。
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