気持ちの伝えかた
石野智也の場合
今日も生憎の雨模様。

曇天に包まれ気分も浮かない、雨の日独特の蛙か何かが死んだような生臭さ。

地面を彩る様々な色彩の傘たちの中に、僕らはいた。

行き交う人々のなかで狭い傘をシェアする、所謂相合い傘。

お互いの肩が濡れて、自然と距離が近くなる。

雨が傘を弾く音、喧騒、君の吐息、傘のなかだけはまるで別世界のよう。


「ありがとうございます、助かりました」


雨音があるから、いつもより声を張って話す君。

縮んだ距離でわかる君のまつげの長さや、つやつやした髪の毛の質感。

触れたいけれど、触れられないむず痒さを孕みながら僕らは歩く。

今はこうして服が擦れ合う距離にいれるのだから、それだけで幸せな時間だ。

「僕は大丈夫ですよ、もっとそっちにやりましょうか? 濡れちゃいます」


「あ、平気です。お気持ちだけで…」


そういって苦笑いを浮かべて謝ってくる君が、更に愛おしくて。

先に来てた君の傘、誰が持っていったのかな。

大きな施設だから、そういった輩もいるかもしれないね。

でももしかしたら、生け垣のなかに潜んでいるかもしれないね、きっと。

僕と一緒の傘に入りたいから、傘が遠慮してくれたのかもしれないね。

また次も雨なら一緒だね、こうして相合い傘して途中までの道のりを帰ろう。


また僕が、君を誘うから。
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