気持ちの伝えかた
俺の予想していた展開と、違う。

こう物静かで養護教諭がサボりの子にベッドは貸さないわ、と言いながらもサボることに対するお咎めはなしで。

遠くの喧騒をBGMにうららかな日和の中で、惰眠を貪ろうとしていたのだけれど。


「またなの? 保健室を託児所か何かと勘違いしてるんじゃないでしょうね」


「まぁまぁ、そう言わずに。これも預かってくださいよ」


人をこれって、俺は物か何かと勘違いしているのか。

というか本当に俺の意思は関係ないんだな。


「全く…また連れてきたら金とるわよ」


おぉ、教員としてあるまじき言語。


「んー、たぶんこれで最後かも、全部見回ってきたから。んじゃ先生、あとよろしくー」


俺をここに連れてきた女生徒は次出場だから、と言って揚々と手をふり、保健室から消えていく。

次の競技に出場となると時間的に…なんと下級生だったのか。

ずいぶんと熱心な子だと感心していると、後ろから声をかけられた。


「あなた、名前は? あぁ、麻田くんね。熱中症ってことにしておくから、終わるまでここにいなさいな」


あの子も俺の名前を知っていたのは、首にぶら下げているゴム紐帽子の名前を見たからのようだ。

分かりましたと生返事を返し、改めて保健室を見回す。

読書をしている者、スマホをいじっている者、ベッドで寝ている者、ソファーで寝る者、お茶をすする者…合計すると俺を含め七人もの生徒がいた。

これら全てがサボりなのかは分からないが、とにもかくにも人口密度が高すぎる。

そりゃ、託児所かと怒るわけだ。


「わかってると思うけど、寝てる人もいるから騒がないでね。問題も起こさない、起こしたら校庭につき出すわよ」


見事なまでの脅し文句である。


「騒がしいのは俺も嫌いなので、その辺は問題ないです」


白衣をまとった教員はその言葉に納得してくれたのか、それ以上なにも言わず椅子に腰掛け一人の生徒に渡されたお茶をすする。

全校生徒参加行事なのだが、俺みたいな人間も少なからずいるようで安心した。

とりあえず横になることは叶わないし、かといって何かしたいことがあるわけではない。

仕方ない、空いてるソファーに座ってるとするかな。


「隣、いいかな」


空いてるソファーは女子の隣しか、ないのだが。


「いいよ、ここしか空いてないもんね」


読書をしていた女子は少し移動して、スペースを広くしてくれた。

ちょっとした心遣い、優しい子なのかな。


「麻田くん…だっけ、君もサボりなの?」


直球を投げてくる子だな。


「そうだけど、君もってことは…」


「あ、私は違うよ。本当に調子悪くて保健室で休んでるの」


全て言う前に否定されてしまった。


「そうなんだ、寝てなくて大丈夫なの?」


「来たときにはベッド埋まってたし、それに横にならないといけない程酷いわけじゃないから」


心配してくれてありがと、そういう彼女に少し興味が湧いた。
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