気持ちの伝えかた
これはどういう状況に陥ったのだろう?
台から足を滑らせてしまった私は地面に尻餅をつく、はずだったのに。
それなのに私はいま、彼の腕のなかにいる。
体はどこも痛くないけれど、胸だけが張り裂けそうに痛む。
私とは違う柔軟剤の香り、意外とがっしりした体。
「…っと、岡本さん大丈夫っすか」
吐息を感じられるほどの距離、耳許で聞こえるその声音。
痺れるほどに私の耳朶をかすめていく。
「あ、う、うん。ごめんなさい、びっくりしちゃって」
後ろから抱き締められる形で助けられたのだ、今もまだ驚きはおさまっていない。
早く離れなきゃいけないんだけど、体が思うように動かない。
脳の指令を体が拒むように強ばり、ヒリヒリとむず痒い痺れが脳内を支配する。
「岡本さんらしくないっすよ、重いなら俺に任せてくれて構わないんすから…」
優しく甘いその声。
もう彼に私の鼓動が聞こえているんじゃないかって思うほど、高鳴りは続く。
ただ、倒れそうな人を助けたがゆえになった現象であって故意ではない。
わかっているのに、気持ちばかりが暴れて震えることしかできなかった。
「怖かったんすね、岡本さんがいいなら…おさまるまでこうしてますから」
そういって体を強く、でも息苦しくならない程度に加減して抱きしめる彼。
「ち、ちがうの!! これは…その…」
あなたに抱きしめられてるから、こうなったの。
「あ、嫌だったすかね」
そういって私から離れようとする手を、思わず握りしめていた。
「ちがうの…う、嬉しかった」
とっさに口を覆った、私ってばなにを言っているの。
「なら、もう少しだけこのままでいいっすか」
クスリと笑ってまた、彼は優しく体を抱きしめた。
「ずっと好きでした、会ったときから。所謂一目惚れです、話していくうちにもっと惹かれました」
耳朶まで紅潮していくのがわかる。
嬉しい反面、とてつもない罪悪感が体を襲う。
「でも、話していくうちに彼氏がいることがわかって…この思いは自分の中だけに留めようとしてました」
そう、私には付き合って二年になる彼氏がいるのだ。
それなのに私はこの状況を手放したくないと思ってしまう、なんて身勝手なんだろう。
「でも、こんなことになって…俺、もう」
なかば強引に私を振り返らせられ、彼と真っ正面から向き合う形になる。
「好きです、岡本さん。彼氏から奪ってもいいですか」
なんて、蕩けてしまいそうなほど甘い言葉なのか。
澄んだ綺麗な瞳で見つめられて、理性よりも本能が勝ってしまう。
無言で頷くと同時に、私の唇は彼によって塞がれた。
台から足を滑らせてしまった私は地面に尻餅をつく、はずだったのに。
それなのに私はいま、彼の腕のなかにいる。
体はどこも痛くないけれど、胸だけが張り裂けそうに痛む。
私とは違う柔軟剤の香り、意外とがっしりした体。
「…っと、岡本さん大丈夫っすか」
吐息を感じられるほどの距離、耳許で聞こえるその声音。
痺れるほどに私の耳朶をかすめていく。
「あ、う、うん。ごめんなさい、びっくりしちゃって」
後ろから抱き締められる形で助けられたのだ、今もまだ驚きはおさまっていない。
早く離れなきゃいけないんだけど、体が思うように動かない。
脳の指令を体が拒むように強ばり、ヒリヒリとむず痒い痺れが脳内を支配する。
「岡本さんらしくないっすよ、重いなら俺に任せてくれて構わないんすから…」
優しく甘いその声。
もう彼に私の鼓動が聞こえているんじゃないかって思うほど、高鳴りは続く。
ただ、倒れそうな人を助けたがゆえになった現象であって故意ではない。
わかっているのに、気持ちばかりが暴れて震えることしかできなかった。
「怖かったんすね、岡本さんがいいなら…おさまるまでこうしてますから」
そういって体を強く、でも息苦しくならない程度に加減して抱きしめる彼。
「ち、ちがうの!! これは…その…」
あなたに抱きしめられてるから、こうなったの。
「あ、嫌だったすかね」
そういって私から離れようとする手を、思わず握りしめていた。
「ちがうの…う、嬉しかった」
とっさに口を覆った、私ってばなにを言っているの。
「なら、もう少しだけこのままでいいっすか」
クスリと笑ってまた、彼は優しく体を抱きしめた。
「ずっと好きでした、会ったときから。所謂一目惚れです、話していくうちにもっと惹かれました」
耳朶まで紅潮していくのがわかる。
嬉しい反面、とてつもない罪悪感が体を襲う。
「でも、話していくうちに彼氏がいることがわかって…この思いは自分の中だけに留めようとしてました」
そう、私には付き合って二年になる彼氏がいるのだ。
それなのに私はこの状況を手放したくないと思ってしまう、なんて身勝手なんだろう。
「でも、こんなことになって…俺、もう」
なかば強引に私を振り返らせられ、彼と真っ正面から向き合う形になる。
「好きです、岡本さん。彼氏から奪ってもいいですか」
なんて、蕩けてしまいそうなほど甘い言葉なのか。
澄んだ綺麗な瞳で見つめられて、理性よりも本能が勝ってしまう。
無言で頷くと同時に、私の唇は彼によって塞がれた。