きみは、わたしの名前を呼んではくれない。
「……ちょっと、時間くらはい」
「くらはいって……いいよ、待ってる」
ぷくく、と子どもみたいに笑った彼の横顔を見て、やっぱり好きだなあと思った。
時間をくださいなんて言ったわりに、何も考えられなくて、緑が少なくなってきた並木道をふたりで静かにゆっくりと歩いた。
「……コウくん」
しばらくして、わたしがぽつりと彼を呼ぶ。
「はい」
彼は笑いを堪えるようにして、そう返事をしてくれた。
「好きです」
「うん、知ってる」
変なひと、と笑う彼に、コウくんだけには言われたくないかもしれないなんて思ったけれど、
すごく幸せだったからわたしは何も言い返さなかった。