きみは、わたしの名前を呼んではくれない。


「なあに、コウくん」



だからわたしは、いつもこうして意味もなく彼の名前を呼んでやる。



なあに、だけじゃなくて。
コウくん、って。 絶対に。


そこに、ほんの少しの嫌味と対抗心を織り交ぜて。




「ノート、ありがと。 たすかった」


「いえいえ、慣れました」


「そりゃ申し訳ない」


「思ってないでしょ」


「相変わらずノート綺麗だね」


「誤魔化したな……」



彼は、わたしを誤魔化すのが上手だ。



だから時々思う。

わたしは彼に、誤魔化されてばかりなんじゃないかって。

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