きみは、わたしの名前を呼んではくれない。
『あーうん、いま家?』
「うん、家にいるよ!」
『そっか、よかった。 ちょっとだけ、出て来てくれない?』
「え、」
『いま、いるから』
え、ええええっ?
うそ! うちの前に⁉
なんで!
「す、すぐいくっ!」
ドタバタと転げるように階段を下りて、その勢いのまま玄関のドアを開けたわたしの前には。
「ふは、すごい勢い」
一瞬驚いたように目を見開いてから、クスクスと笑う彼。
その笑顔で、ぶわあって、さっきまでの黒いモヤモヤが消えていくみたいだった。
……ほんと単純だ、わたし。
あ、と思って、二階の弟の部屋をちらりと見上げると、さっきまで全開だったカーテンがきっちりと閉められていた。
素直じゃない子だなあと思って、少しだけ笑みがこぼれた。