大切なものはつくらないって言っていたくせに
「マジか? ご近所さんにバレてねえの?」
「まあ、仕事してないだらしない父親が戻ってきたと思われてるな。」
「子どもは?おまえ、手なづけれたの?」
「ひでえな。その言いよう。懐いているとは言い難いし、ほとんど口もきかないけど、まあ遥がいない時は、保育園の迎えもするし、一緒に風呂も入る。」
「はああああ?」
龍一は、信じられないというふうに首を振る。
「まあ、やってみて、意外とすんなり行った。愛の力ってやつ? というか血の繋がりは大きいってとこかな。」
「遥ちゃんは?」
「うん。まあやっと通じたっていうか。あいつお堅いからさ、やっとの事で受け入れてもらえたって感じかな。」
祐樹は、らしくないほど照れたような嬉しそうな表情でそう言う。

「ちゃんと結婚するし、一応公表もサラッとするかな。隠す必要もない。」
「へええ。おめでとう。」
「で、だ。 今のところはさすがに住んではいられない。公表したら、俺はともかく、遥の周りも騒がしくなるし、子どももいるとなると、嗅ぎつけた週刊誌が保育園までやってくる可能性がある。」
「まあ、それは覚悟した方がいいな。」
「できたら、保育園は変えたくないんだけど。」
「無理だろ? 普通の小さい街の保育園だろ? 有名人は、セキュリティが厚いインターの幼稚園や名門に入れなきゃ難しいよ。」
祐樹は、ため息をつく。
「住むところも、あまり地域は変えたくない。」
「なんで?すっかり子どもを思う父親って感じ?」
もう俺は呆れて力なく笑う。
「ねえ、それは祐樹だけが思ってるんじゃねえの? 別に環境が変わったって、子どもはすぐ慣れる。おまえが転がり込んで来ても動じないようにね。」
「知ったようなこと言うな。」
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