大切なものはつくらないって言っていたくせに
新たな出発
俺たちは、とりあえず極秘で入籍をして、変わらずに狭いアパートで暮らしていたが、結局はバレてしまうのも時間の問題だった。
案の定、保育園にはだいぶ迷惑をかけたし、樹の写真も悪用されるし、遥は週刊誌に追いかけ回されるし、結局このゴタゴタが、三人で日本を離れるきっかけとなってしまった。
イタリア行きか、日本にとどまるならどこに住処を構えて、樹の園をどうするかという話は、遥と相談している最中だった。
もう、こうなるなら樹のためにも騒がれないところに行こう。
イタリアへ行こう! と勢いで決め、日本から逃げるようにして出発した。

その出発する成田で、俺は自然と樹を抱いて、スーツケースを引いていた。
樹が
「ママより高い。」
とちょっとワクワクしたような口調で周りをキョロキョロする。
「あ」
その時、俺は初めて樹を抱っこしたことに気がつく。
華奢な小さな身体で、遥はよくこいつを抱っこしてたなと関心する。

これからは、俺が肩車もしてやるか。
もっと高い景色が見られる。

遥は、これが最初なんて気がついてない様子で、もうだいぶ前からこんな風にしていたようにウキウキした顔で、
「ねえ、いっちゃん飛行機。どの飛行機が好き?ママはねー。 」
なんて無邪気な事を言っている。
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