大切なものはつくらないって言っていたくせに
「おまえに、たのみがあるんだ。」
祐樹は、そう言った。

「これが大きな騒ぎになる前に、ある人に会いたい。」
祐樹がいつになく真剣な鋭い目をして言う。
女? もし、そうだとしたら、祐樹がそんなふうに真剣になるなんて珍しいことだ。

「・・・・・・・女?」
だから、聞いてみた。

「ああ。」

「へえええ。」
俺は、ついそんな声が出てしまう。

「・・・・・。」

「なんだっけ?あの女優の糸上志保ちゃん? それとも、局アナのなんだっけ?名前・・・えっと。」
と祐樹の過去の交遊関係を頭の中で辿ってみる。

「ちがう。」
祐樹は、ある女性雑誌を切り取って折りたたんだものをポケットから出してきた。 
ある料理記事だった。
料理記事の横に、「料理研究家 一之瀬遥」とクレジットされてあり、ほんの小さく顔写真も載っている。

なんとなくわかるかも。
彼女、たまに料理番組にも出ているからそこそこその業界では有名なのかな。

俺は意外な展開に驚く。
この娘と祐樹にいったい何の関係があるんだろう?
「で?俺にこの娘とコンタクトをとって、会う段取りをしてほしいと?」

祐樹は、また口角をあげてにやりと笑う。
「さすが。龍一。 全て言わなくてもおわかりで。」

俺は、その記事の彼女の顔をじっと見た。
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