大切なものはつくらないって言っていたくせに
「意外なんだけど。」

「何が?」

「知り合いなの?この娘と。」

「ああ。」

「当時、噂にあがった?この女の子。」

「・・・・・・・・。」
祐樹は、黙ったままだ。

祐樹が俳優をしていた時から、俺は秘密裡に逢引きをする芸能人たちの手助けみたいなこともやっていた。

うちのスタジオやサロンも芸能人御用達の店であるわけで、そのサービスの一環としてそうやって暗黙の了解で、彼らと信頼関係を築いてきた。

大物カップルのキューピットとして表彰されたっていいくらい、俺のそういう役割が芸能界の中では大きかった。
自分のビジネスもこれで安泰というわけだし。

だから、俺はあんまり根掘り葉掘り彼らのプライベートはきかない。
必要な時だけ手を差し伸べる。

祐樹がこれ以上、この娘とのことを語りたくないのなら聞かない。

でも、騒ぎが大きくなった後で、彼女に会いに行くのは難しい。

万が一、噂にでもなったとしたら、彼女も一応顔出しの料理研究家ということなら、彼女の仕事にも影響しかねない。

そういうところだろう。



祐樹と別れた後、俺はちょっと彼女のことを調べてみた。

今は、ネット社会だから、名前を入れて検索すればだいたいの情報はわかってくる。

一之瀬遥

27才ってことは、祐樹より八個下。

手掛けている雑誌や番組なんかを考えても、ナチュラル系の分野。 俺は、OLさん系の女子力満載分野の雑誌仕事が多いから、あんまり業界的には重なるところがない。

俺、こういうナチュラル系の女けっこう苦手。 私、男には惑わされません。しっかり自分の足で自分の生活スタイルを作って、すべて自分の好きなものを自分でチョイスして丁寧な暮らしをしてますみたいな。
で、ボーダーとか定番で、洗濯しやすい綿系の服とか着てて、トートバックとか持っちゃってさ。女の色気はあえて出さないような感じ?
そして、コレ系は美人が少ない。 個性で魅力を出すみたいなね。

祐樹って本当はこういうのがタイプだったわけ? 昔は違ったんだけどな。

一之瀬遥は、まさにそんなタイプ。 一重の重たそうな目。小さい鼻に小さい口。唇だけはぽってりしていて、それがアンバランスだ。 サラサラの黒髪で、前髪はフリンジ。色白。左目の下には小さな泣きぼくろがあって、それも彼女の雰囲気を個性的にしている。
でも、笑うと感じの良いふわりとした雰囲気。料理番組なんかを見ると、彼女が良識人できちんとした人だということがわかる。
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