大切なものはつくらないって言っていたくせに

この子の攻略法は、美味いもんを目のまえにすれば良いのかも。

「おいし！」
目を光らせて、料理一つ一つを丁寧に愛でながら口に運ぶ。

「時間がないので、単刀直入に言いますけど、ニュースは連日流れてたんで分かりました。彼は、瀬田祐樹は生きてたってことは。」

「君も、なんだかんだ言って俺に今日ついてきたのは、祐樹のことが知りたいから？じゃない？」

「・・・・・。」

「佑樹は、これが騒ぎになる前に君に会いたいって言ってたんだ。まあ、失敗に終わっちゃったわけだけど。」

「・・・・・・。」

「君は会いたくない？ やっぱり。」

「わかりません。」

「わからないって何が？」

「今さら瀬田さんが私と会いたいっていう意味が。」

「・・・・・・・・・。」

「失踪したって聞いた時、まず一番に私のお店に彼は現れると思っていました。
お店のスタッフもみんな祈るような気持ちでいたし、どんなに心配していたことか。でも、待っても待っても彼は現れませんでした。来れない理由が何かあったのかどうかわかりませんが、連絡くらいしてくれても。」

「じゃあ、直接会って聞いてみればいいじゃないか。」

「もう、遅いです。」

「なんで？」

「今の生活を邪魔されたくないです。」

「どういう事？」

「そのまんまの意味です。今の生活が大切で守らなくてはいけない。
瀬田さんがイタリアで居場所にしてくれていた私たちのお店も無くなっちゃいました。
良いお店だったのですが、オーナーが騙されたような形で借金を背負ってしまってみんなクビになりました。
スタッフもそれぞれバラバラになって、それぞれのところで頑張っているんです。」

「再会して思い出話でもすれば良いじゃないか？」

「・・・・・後ろ向いたって仕方ないでしょう。瀬田さんだって、作家として認められて次の人生歩んでるじゃないですか。」