大切なものはつくらないって言っていたくせに
いざ会えるとなると
龍一に呼び出されて、サロンに向かう。

ついでだから、もうこの髪や服装もどうにかしてもらおう。
先日の報道で、自分の姿を写されてしまってから、逆にこの風貌や格好と引きずる脚で、すぐに俺が瀬田佑樹だとバレてしまうようになった。

案の定、タクシーの運転手にも気がつかれたし、降りたところですぐに人垣ができてしまった。

メンドクセーな。 足早に歩くこともままならないから、マジでイライラする。

俺は正面の入り口から堂々と入る。 龍一の店の店員も客もみんなビックリしてこちらを見る。

ああ、何たってまたこんな生活に戻ってしまったんだよ。俺は静かに地球のどこかで身を潜めていたい。

前からずっといるチーフマネージャーだけは、心得ていて、すぐに俺を奥のVIP専用エレベーターに促す。

このビルの最上階のVIPルームに足を運ぶと、龍一がソファの上でうたた寝をしていた。

仕事も忙しいんだろう。

俺の気配に気がつきハッと目を覚まして、ガバっと起き上がる。

「よう、有名作家さんのお出ましだ。 バレずに来れたか?」

「いや。」

龍一は、起き上がってビルの窓際に行き、大通りを見下ろす。
「うん。なんか、少し出待ちが外で待ってるな。」

龍一は、アゴで俺を促し、シャンプー台の方へと誘導する。
知られたくない話がある時は、アシスタントも部屋には入れず龍一自らシャンプーをしてくれる。

こいつの手さばきは極上だ。とても気持ちがいい。
女の扱いも慣れてるんだろうなっていつも思う。
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