大切なものはつくらないって言っていたくせに
龍一は、プッと吹き出し笑い出す。

「何がおかしいんだよ!」

「いや、、、、、。お前のその自信喪失加減には驚かされるよ。 そこまで人を変えちゃう遥ちゃんってすごいじゃん。」

「・・・・・・・・。」
俺は、顔を赤くして怒る。俺は、何をのたまっているんだ。こんな奴に弱みを見せちまったなと後悔する。
でも、もうすでに俺は打ちひしがれていた。
そうだよ。あれから、三年も経ったんだ。

結局俺の一方通行の思いのまま、遥と一晩だけ過ごしたあの最後の夜のことも、遥にとっては俺の気の迷いの一つだって思っているに違いない。



龍一は、俺の髪を整えると昔やっていたように、そのままフィッティングルームに促す。
「こんな感じかなあ。やっぱ作家芸術家系は、コムデだよなぁ。」
と呟きながら、綿の少し肩の落ちた着心地の良さそうな黒のジャケットとTシャツ、チノパンをぱっぱと選んでソファに置く。

「はい。これに着替えて。このきったない戦場カメラマン服は、処分するからな。あと、三つ四つコーディネート揃えていい?」

「ああ、頼むよ。戦場カメラマンはもう足がついて、どこを歩いても俺だってバレちまう。」

「あいよ。」

龍一に言われるがままに、それに着替えると、魔法がかかったように別人になる。 ほんと、こいつは魔法使いだな。
「ほれ、これも。」

龍一がサングラスと伊達眼鏡も三つ四つ用意する。

「それならバレないし、遥ちゃんに会いに行けるか。」

「はあ?何言ってんだよ。向こうは嫌がってるんだろ?」

「そんなん、カンケーねーよ。お前、会いたいんだろ?」

「・・・・・・・・・。」
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