大切なものはつくらないって言っていたくせに

「遥」

あの瀬田さんの低い響く声が後ろから聞こえる。
瀬田さんの腕にすっぽりと後ろから包まれる。
「離してよ。」
私は、やっとのことで声を振り絞ってその腕から逃れようとする。

「イヤだ。」
瀬田さんは、私の腕をそのまま掴んで、もう一度自分の胸に引き寄せ正面から私にもたれかかるようにしてギュウッと抱きしめてくる。

「ずっと、会いたかった。」
瀬田さんのかすれたような声。 私は、涙が出そうになるのをこらえ、ゆっくり首を振り、瀬田さんの腕をゆっくりと解くようにしてまっすぐ彼を見て後ろに下がる。

私は少し苦笑して、目をそらす。
「嘘ばっかり。」

「嘘じゃない。遥、」

私は、瀬田さんの言葉を遮るように明るく言う。
「おめでとう。 作家だなんてスゴい。さすが瀬田さん。 それは、ちゃんと言いたかったかも。」