大切なものはつくらないって言っていたくせに
私は、その雰囲気を和らげようとちょっと明るい声で言う。
「ねえ、雨に濡れて寒かったでしょ? 明日のスープちょっと味見する? まだ煮込んでる途中だから、味は馴染んでないけど、あったまるよ。」
「ああ、、もらおうかな。」
彼は、フラっとカウンターに座る。
酔って、そんな仕草もサマになる。
私たちは、カウンターに並んで、レンズ豆のスープに残り物のカリカリとしたバゲットを浸して食べた。
彼は、ワインあけようかと言ったけれど、私は止めた。
「飲み過ぎ。結構酔ってるでしょ。」
彼はがっかりしたようにため息をついて、カウンターにうなだれた。
「どうしたの? 瀬田さんがお酒に呑まれるなんて珍しいね。久しぶりに振る側じゃなくてフラれちゃったとか?」
私はちょっと茶化して言ってみた。
「その反対だな。」
「?」
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