大切なものはつくらないって言っていたくせに

「モテ過ぎて困ってる。」
私は、吹き出して笑う。
「すっごい悩みだね。よっ色男。」
「そのくせ、自分の思いは叶わない。」
「へええ。。瀬田さんがそんなこと言うなんて珍しいね。仕事行き詰まってるの？」
私は、食べ終わった食器を片付けに厨房に入る。
「…………………。そうだな。なにもかも放り投げて、駆け落ちしたい。二人っきりで。誰も俺のこと知らない楽園にさ。」
私はあはははと食器を洗いながら笑う。
「よく言うよ。俳優業が天職なくせに。瀬田さんは俳優はやめられないよ。」
「そんなことない。求められているうちは花だからそれに誠意一杯答えているだけさ。」
彼は、フラリと立ち上がり、「さ、帰るぞ。」と私を促す。
私は、慌てて手を拭いて、厨房着を脱いでカウンターの椅子にかけ、閉まるドアの横に立つ瀬田祐樹の横に駆け寄った。