大切なものはつくらないって言っていたくせに

気がついたら、彼の瀬田祐樹の大きな胸の中で強く抱きしめられていた。

「瀬田さん?大丈夫?フラつくほど飲むなんて。。。」
私は、少しびっくりして彼を見上げる。 酔っ払ってふらついて私に寄りかかったように感じた。
その瞬間、私はそのまま瀬田祐樹に唇を重ねられていた。
私は、目を開けたままだったと思う。 10秒くらい。そんなに長くはなかったと思う。
別の女の人の香りと瀬田祐樹のタバコの苦い匂いが入り混じって、私を困惑させた。
離れた瞬間の彼の目は、苦しみと悲しみで曇った色をしていた。
「ゴメン。。。酔っ払った勢いでする事じゃないよな。」
そのまま背を向けて、彼は手をひらひらと降ったまま店を出て行った。
わたしは、今何が起こったのか理解できず、ただ呆然と雨の強くなった街に消えていく彼の背中を見ながら立ち尽くすだけだった。
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