大切なものはつくらないって言っていたくせに
そのすぐ数週間後には、本屋さんに山積みになって笹川祐二つまり瀬田佑樹の書籍が並ぶようになった。
手にとって、読んでみようかと思って、やめた。
あの事故で、瀬田祐樹は、足を少し引きずるようになってしまったという。
そして、俳優は引退し、「笹川祐二」として、作家活動に専念するという発表がなされた。
三年の間、今までどこにいたのか、失踪したのはなぜか、それによって多方面に迷惑をかけた責任はどこにあるのか、、、、。
いろいろなことが週刊誌やテレビで取り上げられているようだった。
私は、あれからなるべくテレビも雑誌も見ないようにして、情報をシャットダウンしていたけれど、それでも周りがみんなほとんどその話題を出してくるものだから、自然と耳にしてしまうのだ。
私は胸の奥がきゅっと痛くなる。
忘れもしない。
本格的に冬山の撮影に入る前に、最後に私のレストランに来た日のこと。
「しばらく、ここには来れないんだ。」
瀬田佑樹はそう言って、私に説明をしてくれた。
これから、3ヶ月の山岳訓練を受けること。 その後、プロのチームを組んで冬の山に閉じこもって撮影をする。
聞いている限り、とても過酷で危険な撮影だろうと思った。
「スタントマンとかCGとか使わないんですか?」
私が不安そうにそのことを聞くと、瀬田佑樹は笑って言った。
「まあ、CGは大いに使われるけど。スタントはなるべく使いたくない主義なんだ。大丈夫。なんかあっても、俺の顔と身体には莫大な保険がかけられているからさ。」
「そういう問題じゃないでしょ?! 何かあっちゃ困るもん。」
「あ、心配してくれてるんだ?」
私の目を覗き込むようにして微笑んで言う。
私は、慌てて目をそらす。
「そりゃそうですよ。フェルもみんなも瀬田さんの仕事は、私たちシェフよりも何倍も過酷な仕事だって言ってたんだから。」
「遥」
瀬田さんは、私の目を真っ直ぐに見つめて言う。
「この撮影が終わったら、必ずお前を迎えに来る。 だから、、、」
私は、プッと吹き出して笑う。
「ヤダ。瀬田さん。そんな真剣な顔して、どうしたの? 」
「俺は真剣だ。」
私は少し困ったように笑うだけだった。
その半年後、衝撃の事故の知らせは、イタリアの店にも届いた。
みんなどんなに彼のことを心配し、毎日祈っていたか。
失踪したというニュースを同僚のフェルディノンが最初に聞いてきた時も、私たちビストロのスタッフは瀬田祐樹はこの店に必ず現れると信じていた。
もし、ここに来たら、温かく迎えよう。 どんな理由があったってかくまってやろう。
そう思っていたのに、彼はとうとう現れなった。
ずっと待ち続けて疲れた私は、もう彼はこの世にいないと思おうと決心した。
そうやって、前へ進んできたつもりだったのに。
テレビもネットも街中の本屋さんも何もかもシャットアウトして、この嵐が去っていくのをジッと待つしかない。
私は、そう思った。
手にとって、読んでみようかと思って、やめた。
あの事故で、瀬田祐樹は、足を少し引きずるようになってしまったという。
そして、俳優は引退し、「笹川祐二」として、作家活動に専念するという発表がなされた。
三年の間、今までどこにいたのか、失踪したのはなぜか、それによって多方面に迷惑をかけた責任はどこにあるのか、、、、。
いろいろなことが週刊誌やテレビで取り上げられているようだった。
私は、あれからなるべくテレビも雑誌も見ないようにして、情報をシャットダウンしていたけれど、それでも周りがみんなほとんどその話題を出してくるものだから、自然と耳にしてしまうのだ。
私は胸の奥がきゅっと痛くなる。
忘れもしない。
本格的に冬山の撮影に入る前に、最後に私のレストランに来た日のこと。
「しばらく、ここには来れないんだ。」
瀬田佑樹はそう言って、私に説明をしてくれた。
これから、3ヶ月の山岳訓練を受けること。 その後、プロのチームを組んで冬の山に閉じこもって撮影をする。
聞いている限り、とても過酷で危険な撮影だろうと思った。
「スタントマンとかCGとか使わないんですか?」
私が不安そうにそのことを聞くと、瀬田佑樹は笑って言った。
「まあ、CGは大いに使われるけど。スタントはなるべく使いたくない主義なんだ。大丈夫。なんかあっても、俺の顔と身体には莫大な保険がかけられているからさ。」
「そういう問題じゃないでしょ?! 何かあっちゃ困るもん。」
「あ、心配してくれてるんだ?」
私の目を覗き込むようにして微笑んで言う。
私は、慌てて目をそらす。
「そりゃそうですよ。フェルもみんなも瀬田さんの仕事は、私たちシェフよりも何倍も過酷な仕事だって言ってたんだから。」
「遥」
瀬田さんは、私の目を真っ直ぐに見つめて言う。
「この撮影が終わったら、必ずお前を迎えに来る。 だから、、、」
私は、プッと吹き出して笑う。
「ヤダ。瀬田さん。そんな真剣な顔して、どうしたの? 」
「俺は真剣だ。」
私は少し困ったように笑うだけだった。
その半年後、衝撃の事故の知らせは、イタリアの店にも届いた。
みんなどんなに彼のことを心配し、毎日祈っていたか。
失踪したというニュースを同僚のフェルディノンが最初に聞いてきた時も、私たちビストロのスタッフは瀬田祐樹はこの店に必ず現れると信じていた。
もし、ここに来たら、温かく迎えよう。 どんな理由があったってかくまってやろう。
そう思っていたのに、彼はとうとう現れなった。
ずっと待ち続けて疲れた私は、もう彼はこの世にいないと思おうと決心した。
そうやって、前へ進んできたつもりだったのに。
テレビもネットも街中の本屋さんも何もかもシャットアウトして、この嵐が去っていくのをジッと待つしかない。
私は、そう思った。