大切なものはつくらないって言っていたくせに
身体を重ねた日
あの日、俺は日本での撮影を終えて、そのままローマ行きの直行便に乗り込んだ。
あの頃は、考えれば異常だった。
どんなに疲れていたって、日本にはとどまらず、少しでも時間があればローマの自宅へ戻っていた。
居心地がいいからとか周りには言っていたが、あれは結局遥に会いたかっただけなんだ。
中1日挟んで、ロンドンでの撮影があった。それでも、俺はわざわざローマを入れ込んで遠回りしていたってわけだ。
それなのに、店に顔を出したら、あいつはいなかった。
あからさまにガッカリした俺を見たフェルが、事情を話してくれた。
「遥は、今日はお休みよ。体調が悪いんだって。」
「風邪か?」
「あの子、日本での仕事が一つ決まったのよ。雑誌の連載だって。こっちの仕事もフルでこなしてたから超ハードだったのよ。」
「へえ。すごいな。念願叶ったわけだ。」
俺は純粋にその話を聞いて嬉しかった。
「ま、あとは、それに追い討ちをかけるように、例のオトコに別れを告げられて参ってるのよ。」
「ふうん。」
フェルは、ニヤリと笑って言った。
「お弁当作るから、上の遥のとこに持ってって様子見てきて。あの子、ロクに食べてないと思うから。」
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