大切なものはつくらないって言っていたくせに
「で、結局、日本に帰るのか。ビストロやめて。」
遥は、ビックリした顔をして聞く。「え、なんで?」
「東京に戻れば、その連載だって時差の問題や高飛車な編集者の対応だってマシになるだろ?それに、元々はフードライターになりたかったんなら、どこかでこっちの店の事は踏ん切りつけないといけないだろ?」
「……………。」
遥は、押し黙って、無言でピクルスを口に入れる。
意地悪な気持ちが芽生えて、一言俺は付け加える。
「大好きな彼氏ともこれで近くなるわけだし?」
遥は、少し動揺した表情で言う。
「連載一個決まったくらいで、東京で暮らしていける原稿料なんてもらえないし。」
「あとは援助してもらえばいいだろ?」
俺は皮肉たっぷりに言う。
遥は、キッと俺を睨む。「そんなの嫌。」
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