大切なものはつくらないって言っていたくせに
瀬田さんが忘れたタバコとジッポを私の部屋に取りにきた。
ちょうどお風呂から上がって、確かに無防備な格好だったかもしれない。

手渡そうとしたタバコとジッポは、床に落ち、気がついたら私は瀬田さんの胸に引き寄せられて、2回目のキスをされていた。
今度は、そっと触れるだけのキスではない。
もうちょっと踏み込んだもの。 私は、そのまま口を開け、瀬田さんの舌を受け入れた。
さすが、なんだかキスが上手なんだと思った。
嫌悪感もなく、自然と受け入れてしまう。タバコの味とおそらく下で飲んだスコッチの香り。大人の甘い苦いキスが私を酔わせた。

長いキスの後、私は半ばボンヤリした様子で瀬田さんを見上げて、とんでもないことを言ってしまった。

「確かに、、、瀬田さんに忘れさせてもらうのもいいのかも。。。。」
瀬田さんは、一瞬えっ!という顔をして、いつだかしたような苦しそうな表情で私から目をそらす。
小さく「バカヤロウ」と呟いて。

急に景色がひっくり返って、私は瀬田さんにそのまま抱き上げられ、少し乱暴にベッドに押し倒されるようなかたちになった。

それからの記憶はないくらい、私は、瀬田さんの激しい怒ったような鋭い
視線と愛撫に落ちていった。

何度も私の名前をささやき、好きだとかかわいいとか私の反応を見るたびに優しいたくさんの愛に溢れた言葉も、熱い射抜くような視線も、その時だけは本物のように感じて思いっきり私はそれに酔いしれた。

何度も求められて疲れて眠った私を置いて、瀬田祐樹が静かに出て行った朝。

私は、愛に溢れた素敵なそしてものすごくエロティックな夢を見ていたのかもしれないと錯覚するくらい、その夜のことは幻のように感じた。
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