大切なものはつくらないって言っていたくせに
遥と再会はできたが、その後は自分でどうにもできずに悶々としていた。
頼みの綱である龍一は、この件については一切手を引かせていただくと宣言され、お前が自分でどうにかするべきことだと突き放された。
連絡先さえも教えてもらえず、俺はどうしたものかと考えあぐねていた。
それに加え、俺の周辺はにわかに騒々しくなってきた。
俳優業のかたわら、自分を保つために書き溜めていたものがこうやって世間に評価され、認められることは、光栄だ。
映像の世界にはもう出ないにしても、著名人との対談や雑誌の取材、その他にいくつかの連載も決まり、日々忙しくしていた。
それでも、遥の泣き顔がたまにふと脳裏に浮かぶ。 
こうやって発信する自分のことばが、少しでも遥に届くといい。祈るような気持ちで過ごすことしかできなかった。


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