大切なものはつくらないって言っていたくせに

「遥には大切な人がいるって言っていた。だから、もう関わらないで欲しいって。」
俺は、絞り出すような声で言う。
フェルは、目を伏せて、ジッと黙っている。
「そう。だから僕の事も受け入れてもらえない。一番の理解者である友だち以上にはなれないって事だよ。」
「………………。」
俺は、押し黙って、注がれた赤ワインを口に含む。
でも、どうしても諦められない。 それになんか腑に落ちないんだ。きちんと遥と話がしたい。

フェルは、ジッと俺の様子を見ながらワインを飲んでいる。
しばらくして、俺の気持ちを見透かしたように言う。
「僕ってお人好しなんだよね。」
「あ？」
「まあ、祐樹には知る権利はあるのかもしれない。彼女が、今日本でどんな生活をしているのか。」
フェルは、スマホを取り出して、近くのナプキンをとって、ボールペンでスラスラと書いて、俺に乱暴に投げるように渡す。
「今日は、祐樹の奢りね。いっちばん高いワイン頼んじゃったもんね。そして、もうこれで最後の親切かな。後は知らないよ。」
そう言って、フェルは、テーブルを後にした。
ナプキンを見ると、ローマ字で書かれた日本の住所だった。
「でもさ、いきなり突撃したりして、彼女の今の幸せをぶち壊すような事はするなよ。彼女を傷つけるような事をするなら僕は祐樹を許さない。」
店を出ようとするフェルに大きな声で言う。
「フェル！ありがとう！」
彼は振り向く事もなく、少しだけ手を挙げて外に出た。