大切なものはつくらないって言っていたくせに
「ここで世話になるってどういうこと? 今までどこにいたの?」
「ずっとホテル暮らし。 家探す暇もなかったんだよ。」
呆れた顔で、遥は俺を見る。
「荷物はこんだけだし、作家なんてノートパソコンと通信機器だけありゃ、どこでも仕事ができる。」
「勝手なこと言わないで! 」
「自分勝手なことを言っているのはわかってるよ。でもこうするしかない。」
「私と子どもで平穏に暮らしてる。それに、こんな狭いところに瀬田さんみたいなでくの坊がいたら邪魔でしょうがないの!」
俺は苦笑して
「でくの坊ってひどいよな。」
「だって、家事も何にもできないくせして。女の人口説くことしか能がないし。」
「アホか。」
「それに、子どもだってなつくかどうかなんてわからない。」
「遥。俺は、この先お前と一緒にいたい。ずっとそう思ってた。だから、そのためだったらなんだってする。」
遥は、顔を赤らめそして怒る。
「バカみたい。言葉だけなら簡単だよ。私には、この子が一番なの。」
「遥がそう言うんなら、俺にとっても一番だよ。 それにその子には俺に責任もある。」
「私の気持ちは、関係ないの?」
「それを聞くのは、怖い。でも、フェルと一緒にならなかったのなら、俺にチャンスはあるはずだと思った。」
「私は、別に瀬田さんのことなんか、もう死んだものだと思っていたし。その方が美化されて、良い思い出になってたかもしれない。」
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