大切なものはつくらないって言っていたくせに
俺は苦笑する。
「ひどい言われようだな。俺様をここまでコキ下ろすのはお前しかいないよ。」
遥はフンっとそっぽを向いてムッとした顔で言う。
「チヤホヤされていた頃のイケメン俳優とは違うんだから。私は何人も瀬田さんに泣かされてきた女の子を見てきたし。 それなのに、私も結局最後ほだされちゃって失敗して子供作って。
父親なんかいなくても私は子どもと二人でつつましやかに暮らして行くって決心したの。
今さらのこのこ現れたって、私は瀬田さんのことなんか、、」

遥の頬にスッと涙がつたって言葉に詰まる。遥は、俺から目をそらし慌てて涙を拭う。
「遥。」
俺は、たまらず遥を抱きしめる。

さっき玄関で抱きしめた時と同じように、遥はワッと泣き出す。
「どんなに心配したか、わかってる? 私だけじゃない。フェルだって。みんなだって。 いなくなったってニュースが流れた時、絶対みんなあの店に来るって思ってた。だから、あの店がなくなっちゃうってなった時、みんなどうしようって本気で悩んで。」

「ごめん。遥。」
おれは、落胆していた。
心配してくれていた。それもわかる。
でも違う。俺が聞きたいような怖いような事は、遥の気持ちだった。
遥は、俺を必要としてくれるのだろうか。

「遥。俺はお前が好きだ。ずっと好きだった。あんだけ女取っ替え引っ替えしててこんなん言うの信じてもらえないのはわかってるけど、ホントはずっと遥の事が好きだった。」

「……………。」

「だから、お前の気持ちも知りたい。」

遥は、涙で濡れた目で俺をまっすぐ見上げる。
「わからない。」

「わからないって?」

「演じる姿勢とかプロ意識とか俳優としての瀬田さんを尊敬してた。ローマではなんでも話せるお兄ちゃんみたいでもあったし、美味しそうにご飯を食べるとこやお酒を幸せそうに飲むとこも好き。 大スターなのに飾らない気さくで優しいとこも好き。 でも、セックスしちゃった時は私もその女優さんになった気持ちに引き込まれて、自分が映画の主人公になった気分で瀬田さんに愛されたし、自分もそうだった。 あれは幻みたいなものかもしれないって。」

なんなんだよ、それ。
俺は頭を抱えて
「幻じゃない。子どもができたのがいい証拠だろ。」
「ホントに、あまりにも現実的でさすがの私も驚いた。」
「現実に父親は必要じゃないのか?」
「そう考えるんなら、フェルの方がいいのかも。生まれた時から顔見てるし、時々ビデオ通話で話してるし。イタリア語も少し使ってるよ。」
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