大切なものはつくらないって言っていたくせに
なんだよ、それはよー。
俺はもううなだれるしかない。
ふと龍一の言葉を思い出す。
「お前は、今まで女にこっぴどく振られるとか、拒絶されるとか、経験ないもんな。根気よく女を口説くとかさ、そんな必要もねえし。一人の女に執着したこともない。」

でも、俺は今は遥に執着している。

「現実的に言うと、こんなところに瀬田さんをかくまえない。 大スターの瀬田さんだもん。 ここにいる事がバレて、私のせっかく軌道にのった料理家の仕事がなくなったら? 瀬田さんの隠し子とかってなったら、あの子はどうなるの?
私は、怖い。」

「なら正式に堂々と発表すればいい。」

「そんなのおかしいよ。 私の気持ちも子どもの事も無視してよくそんな適当な事が言えるよね。瀬田さんとは住む世界がちがう。」

「それもひっくるめて、俺の覚悟をわかって欲しい。 」

俺の言い分は一方的なのかもしれない。
遥の言葉にかぶせるように言い放つ。

遥は、黙り込み、ジッとその潤んだ目で俺を見る。
俺も遥からは目をそらさない。

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