大切なものはつくらないって言っていたくせに
瀬田さんを結局受け入れるようなかたちになって、最初はいっちゃんについてすごく心配した。
けれど、二人の距離は微妙だけど、案外すんなりとお互い世話して世話されているようだった。
私もおかげで安心して仕事に打ち込める。
実質的に帰る時間を気にしなくて良くなった分、これはできない、ちょっと無理かなと思っていた仕事も受けられるようになり、おかげで仕事の幅も広げられるようになった。
たまに早く帰れる日や、お休みの日も、瀬田さんが洗濯や洗い物、家事をしてくれているので、いっちゃんとめいいっぱい向き合うことができるから、甘えてきたり、わがまま言っても聞いてあげられる余裕が私にもできて、よく保育園で問題を起こしていたいっちゃんも精神的にも落ち着いてきたようだ。

保育園の先生にそれとなく聞かれる。
「最近たまにお迎えに来る方は、樹君のお父さん?ですよね?」
「………えっと。はい。」
戸籍上はそうではないけれど、生物学的にそうだし、明らかに二人は並ぶとそっくりだった。
特に目元が。
なので、初めてお迎えをお願いした時も、それはそれは周りに驚かれたらしいが、みんな「パパが帰ってきたんだ?」「パパいたんだ。」と子ども達も周りの親もすぐに納得してしまったらしい。
「お父さん、戻ってきてから、樹君、とても落ち着きましたよね。人の物とったり、乱暴なこともしなくなって。優しいし、イケメンだから、最初は怖がってた女の子達が今では寄ってくるようになって、モテモテですよ。」
先生は、笑顔でそんな報告をしてきた。
私は思わず苦笑する。
血は争えないって事だよね。 将来がすえ恐ろしい。

「お父さんも樹君に似ていて、実はすごくカッコいいですよね。お迎えのママさん達と言ってたんですー。」
「ははは。」
「どこか遠いところにいたんですか?なんのお仕事されてるんですか?」
「まあ、えっとー。」
なんて言ったらいいもんか。でも、素性はバレてないんだね。 いつもしょうもないジャージ着てたりするから。。。
答えに窮してると、聞いてはいけなかったと先生も気を利かして、
「あ、いっちゃん、コップと歯ブラシ忘れないでー。」
と話をそらしてくれる。
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