大切なものはつくらないって言っていたくせに
帰り道、いっちゃんとゆっくりと歩きながら帰る。
いつもなら、急いで買い物を済ませて、クリーニング行って、コンビニで支払いを済ませ、etc と毎日慌ただしかった。
こんな風にゆっくりと夕方の風景を楽しみながら息子と歩くなんてできなかったことだ。
「みんな、瀬田さんのこと、いっちゃんのパパだと思ってる?」
「うん。思ってるよ。」
「いっちゃんは嫌じゃないの?」
「別に。とても便利。」
私は、プッと吹き出す。
「あ、そう。」

「先生が言ってたけど、最近、いっちゃんは女の子に人気があるって。」
「うん。あるよ。みっちゃんもゆかちゃんもおーちゃんも僕のこと好きだって。」
「ふうん。」
「あの人も人気あるよ。お迎えの時、いっつもいろんなママと楽しそうにお話ししてる。」
「ゲッ…………まじで」
すっかり奴の本性を忘れていた。 私はムッとする。
私たちのテリトリーを勝手に荒らさんで欲しいわ。

私は、すごく不機嫌になる。

帰ると、瀬田さんは出かけていた。
そういえばメッセージが入っていた。
スマホを見ると、
「編集部の人と打ち合わせ。飲んで帰るから遅くなります。ゆ。」

「…………………。」
気が付けば、3ヶ月経っていた。 あまりにもスムーズに三人の生活ができてしまって、正直驚いている。
いっちゃんが、「便利。」と言っていたのが、妙に当てはまる。

案の定、洗濯も掃除もお買物も全部やってくれていて、ご飯だけは炊いておいてくれたから、作り置きのもので私がチャチャっと何か作れば、すぐに夕食にして、お風呂入って寝るだけで良い状態になっていた。

瀬田さんは、こういうところがスマートだ。 なんでもソツなくこなすし、そして研究熱心でもある。
俳優やっていた時の感じで、良き夫、パパを演じる事がサラッとできてしまう。
私は、そんな状況に甘んじつつも、このまま受け入れて良いのか戸惑うばかりだった。
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