大切なものはつくらないって言っていたくせに
「遥」
瀬田さんは、私のことを離さず、腕の中の私を切ないような目で見つめてくる。
「俺がどんだけ自分を律してるか分かってる?」
ため息をついて、私の髪を優しくすいて、頭に口づけをする。
「……………。」
私は無言のままだ。
「あいつが、遥といいムードになるのを小さい身体で全身全霊阻止するから。」
瀬田さんの不満な声に、私は思わず吹き出して笑ってしまう。

「ねえ、遥。もう一回言うけどさ、ちゃんと結婚して世間にも発表しよう。」
「……………。」
「遥?」
私は、ゆっくり頷く。 ほんとは、もっと早くこの胸に飛び込んで素直になりたかった。
でも、なんだかできなかった。
瀬田さんは、ビックリした顔をして私の顔を覗き込む。
「今、うんって言ったよな?」
「………………。」
「な?」
「………うん。」
「マジか? やった!」
瀬田さんは、ガッツポーズをして嬉しそうに破顔する。

「やばい。嬉しい。」
瀬田さんは、私をぎゅううっと痛いくらいに抱きしめる。
「ちょ、瀬田さん痛いってば。」
「もうその瀬田さんって言うのもやめろよな。」
瀬田さんは、あの時みたいに、もう止められないような顔をして私にキスをしようと顔を傾ける。
「ちょっと、待った。やっぱちょっと待った。」
「なんだよ。」
「また、こんなふうにほだされて、流されちゃっていいのか、私。???」
「………なんだよ、それ。」
「今度は結婚だし。一晩だけの約束じゃないし。瀬田さんを信じていいもんかどうか。」
「…………相変わらずひでなー。俺の扱い。」
「夫の浮気に悩まされ、不倫相手の女が刃物持って乗り込んでくるとか、怪文書が送られてくるとか、そんなんで人生振り回されるの嫌だし。」
「アホか。そんなことあるか。もう俺は一つのところに落ち着いたの。」
「どうだか。」
「信用ねえな。」
「当たり前でしょ。」
「そんなことよりも、おまえはどうなんだ?遥。」
「え、何が?」
「俺のことをどう思ってる? 好きとか愛してるとか言ってもらったことがないんですが。」
「………………。」
「ねえねえ。」
「……………なんかムカつく。」
「ホント素直じゃねえな。」



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