夏の日

やっと着いた

いきなり行く気にはなれない。
ひとまず近くを回ってどこかで一息入れて、
まずは電話でもと大きく深呼吸をした。

立派なマンション群だ。夫と子供二人、
そしておばあちゃんの5人暮らし、
幸せそのものではないか。

このマンションなら4LDK以上はありそうだ。
分乗だろうか?賃貸だろうか?

夫はどんな奴だ?その両親はどこに住んでる?
うまくいってるかどうかも全く分からん。

マンション群の中央にスーパーがあった。
木蔭伝いに40℃の熱波の中をやっとの思いで、
スーパーに入った。涼しい!生き返った!

ここから電話をかけることにしよう。
トイレに入り頭を洗って大きく深呼吸をした。
冷静な自分がよみがえってきた。

『ここは千葉県の柏だ、娘と孫が住んでいる』
『俺はいったいここで何をしているんだ?』

もう一人の自分が現実の自分の一見おろかな行為に
ため息をついている。

『電話して3回コールして出なければすぐに引き返そう』
弱気な自分がそう言い聞かせていた。

もう一度大きく深呼吸をして腹を決めた。
『使命のためだ。選挙のためだ。勇気を持って壁を破れ』

階段下の電話機のところへ行く。やっぱりやめようか、
の心を抑えてポケットからテレフォンカードと手帳を出す。

受話器を回した、心臓が高鳴る。
『ブルルル。ブルルル。ブル(カチャ)』

「はい、今村です」
懐かしい元妻の声だ。
「あ、若林です。京都の」

「えー?どーしたの?なんで?今どこから?」
驚いて戸惑っている。いやな感じではない。懐かしい昔のままだ。

「選挙の応援に東京に来て、今すぐそこのスーパーの中」
「ええっ?そこの?」
「そう。先にいるかネットを確かめて、あまりの熱さだったから
ひとまずスーパーで冷やしてから、今電話してる」

「そう、今皆出払って私一人だけど、遠慮なく上がってきて」
「ああ、ありがとう。スイカでも買ってゆっくりと歩いていくよ」

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