今度こそ、練愛
座礁
『有希(ゆき)、結婚しよう』
蕩け合う意識の中、耳元で昭仁(あきひと)が囁いた。
薄暗い視界にぼんやりと浮かんだ彼の輪郭が、ゆっくりと私へ舞い降りてくる。
力強さと優しさとお酒の香りに包まれた体の芯が熱を持つ。小さなベッドの軋む音と心地よい揺らぎが、私たちをさらに深いところへと堕ちていく。
あの時の胸の高鳴りが今でも鮮明に蘇る。
『結婚』なんて言葉に縛られたくない。
そんな言葉に、私は決して踊らされたりするものかと思っていた。絶対に私の心は揺らいだりしないと。
それなのに、私は完全に踊らされていた。
大して魅力があるとは思わなかった言葉に、こんなにも重みがあるなんて。
踊らされたくなかったから、縛られたくなかったから、私は今まで弱みを見せないようにしてきた。
常にクールであることを心掛けてきた。
必要以上に彼に依存しない。自分から会いたいとか、声が聴きたいとは絶対に言わない。何かして欲しいなんて、口が裂けても言わなかった。
今日、それらの努力が全部水の泡になった。
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