今度こそ、練愛
「そうかもしれません、やたらとしつこくて困っていたんです、だから……」
ミラーに映る山中さんの視線が、私の言葉を遮った。
「心配は要らないよ、ウチの店はみんないい人ばかりだから安心して。わからないことは気軽に聞いてくれたらいい」
あの時の会話を尖った視線が、ゆっくりと私から離れていく。鋭さと不釣り合いなほど、山中さんの声は穏やかで優しい。
もう無駄かもしれないとわかっているけれど、これだけはもう一度言いたい。
「助けてくれたことに心から感謝しています。本当にありがとうございました」
山中さんからの返事はなく、車中が静まった。
規則正しく耳に届くのは岩倉君の寝息。振り向いたら窓の外から差し込む街灯の灯りが、気持ち良さそうな寝顔を浮かび上がらせる。
「大事に至らなくてよかった、大隈さんの家はどこ?」
山中さんの声に窓からの景色へと目を向けると、もう間もなく車は家の近所へと差し掛かっていた。
あの時も、ちょうどこの辺りで同じように問いかけられたかも。
「ありがとうございます、この先の三つ目の交差点を右折して、二つ目の交差点にある公園の傍で停めてください」
もちろん、私はあの時と同じ答えを返した。