今度こそ、練愛
思いがけず岩倉君と笑い合い、すっきりした気持ちで店内へと入ろうとしたら呼び止められた。
「大隈さん、ちょっといい?」
岩倉君は笑っていた余韻を残した顔で首を傾げる。
「どうかしました?」
「山中さんとは、この店に来る前から面識があったの?」
「え?」
そう答える他に、何と言って返せばいいのか言葉が見つからない。
岩倉君が宴会の席で、私を鋭い目で睨んでいた理由はそれ?
私の言動から気になったのか、それとも。
「山中さんが隣に座ってからの大隈さん、ずっと顔が赤くて恥ずかしそうだったから」
どんな追及をするのかと、ひやひやしていたら願っていた通りの答えだったから安心した。
山中さんが遅れて来た時から、ずっと私を見ていたんだ。岩倉君は斜め向かいの席だったから常に私を見ることのできる位置。見られていたとしても仕方ない。
「あの時はお酒が回ってて……、私すぐに顔に出る方だから。それに山中さんとは初対面だったから緊張してたし恥ずかしかったから」
「そう、山中さんに一目惚れしたのかと思ったよ」
「まさか……そんなことないですよ」
焦ってしまって声が震える。
もう何にも言わないで。
これ以上話していたら、ボロが出てしまいそう。
「冗談だよ、焦りすぎ。大隈さんって面白い」
岩倉君は意地悪そうに笑った。