今度こそ、練愛

仲岡さんの言ってることはわかったけど、岩倉君にそんな趣味があるなんて疑わしい。既に山中さんとそんな関係だと考えたくはない。



そうではないとしたら仲岡さんが気にするほどの岩倉君の視線は何だったんだろう。あんなに鋭い視線を注いでいたのは、私が嫌われているからだとしか思えない。



「そういうことですか、飲み込みが悪くてすみません」

「私こそ、まあ……岩倉君はともかく山中さんはそんなことありえないけどね」

「どうしてですか?」



あまりにもきっぱりと言い切るからなんとなく不自然に思えたから、聞き返さずにはいられなかった。



「山中さんね、婚約者が居るのよ。ここだけの話……と言いたいところだけど、みんな知ってるんだけどね」

「婚約者が……?」

「相手はグループ会社の社長のお嬢さんなんだって、山中さん、いずれはこの店のオーナーからグループ会社の副社長になるらしいよ、一応聞かなかったことにしておいてね」



たいして強くもない口調なのに、仲岡さんの言葉が胸に深く突き刺さる。



胸の深いところで疼く痛みを、なんとかして紛らわせようと私は仕事に没頭した。






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