今度こそ、練愛
午後ちょうどお客さんの波が引いた頃、ふわりと自動ドアが開いた。高杉さんと仲岡さんは事務所で伝票整理をしていて、岩倉君は配達に出かけて、カウンターには私だけ。
「いらっしゃいませ」
不安ながらも顔を上げると山中さん。
「お疲れ様、今日はひとり?」
柔らかな笑みで問いかけて店内を見回す。
鮮やかに咲き誇る花が、深い黒色のスーツを纏った山中さんをいっそう引き立たせている。
危うく見惚れてしまいそうになるところで、山中さんが歩き出した。
私のいるカウンターへと向かってくる。
「高杉さんと仲岡さんは事務所にいるので呼んできますね」
「待って、呼ばなくていい、これを」
早くここから逃げ出そうとするのを知っているかのように山中さんが呼び止めた。手に提げていた紙袋をカウンターの上に置いて、肘をつく。
「岩倉君は? 配達?」
「はい……、あ、一昨日はありがとうございました。あの後、岩倉君は? 無事に家まで送って行かれたんですよね?」
岩倉君の名前を聞いて、ようやく一昨日のお礼を言わなくてはいけないことを思い出した。