今度こそ、練愛


「安心して、岩倉君はちゃんと送り届けたよ、起きなかったらどうしようかと心配したけど、寝起きが良かったから助かったよ」



笑いながら話す山中さんは、私との会話を覚えているのだろうか。



だけど、山中さんが本当は川畑さんだとしても婚約者がいることに変わりはないのだろう。追及したとしても自分がどんな答えを求めていて、どうしたいのかわからなくなってくる。



「高杉さんに聞きました、岩倉君があんなに酔っ払うのは珍しいそうですね」

「そうらしいね、体調が良くなかったのかもしれない。今日はちゃんと出社しているようで良かったよ」



なんとなく会話を途切れさせたくなくて無難なことを話すと、山中さんもそれを待っていたかのように答えてくれる。
会話の節々に思い出される川畑さんの気配が、記憶へと手を伸ばしそうになってしまう。



「山中さん……ありがとうございました」

「どういたしまして、大隈さん、辛かったことは忘れて、これからのことを考えていこうね」



山中さんの車の中で聞いたのと同じ、諭すような優しく穏やかな声。思いきり川畑さんであることを否定しているように聴こえた。


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