今度こそ、練愛

「はい、ありがとうございます」



自分自身に言い聞かせるように、深く頭を下げた。カウンターの後ろ側から足音が聴こえてくる。



「あ、高杉さんかな?」



山中さんの予想通り、高杉さんがファイルを抱えて現れた。高杉さんは山中さんをちらりと見た後、カウンターの上に置いてある紙袋に気づいて微笑む。



「あら、山中さん、お疲れ様です。来てらっしゃったんですね」

「様子を見に来たんだよ、それと差し入れ」



山中さんが紙袋を指差すのと同時に、高杉さんの後ろから仲岡さんが顔を覗かせる。嬉しそうに顔を綻ばせて、私に何やら目で合図。
たぶん差し入れのことを言っているのだと思う。



「ありがとうございます、頂きます」



仲岡さんと私が差し入れについて目で会話する中、高杉さんが恭しく一礼。



「それから、もう少し先になるけれどイベントの仕事が入りそうだ、ジュエリー部門の展示会で、結構大掛かりになりそうだから覚悟しておいて」

「ジュエリー部門とコラボですか、負けないように頑張らないといけないですね」

「勝たなくてもいいよ、主役はあちらだから。でも負けないように、僕たちの知名度を上げるチャンスになるように」

「もちろん、仲岡さんと大隈さんにも頑張ってもらいましょう、ね?」



前触れもなく振り返った高杉さんに、仲岡さんと私のやり取りは妨げられてしまった。

 

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