今度こそ、練愛

「おかえり」



高杉さんが呼びかけるよりも早く振り向いた岩倉君は、不機嫌そうに頭を下げただけ。まっすぐ事務所へと向かっていく。
配達中に何かあったのだろうか。



事務所へと入っていく岩倉君の背中を見送った高杉さんが、ふうっと溜め息を吐いた。隣にいる山中さんも、高杉さんによく似た寂しそうな目で岩倉君の消えた方を見つめている。



尋ねる勇気はないけれど、二人は岩倉君が不機嫌な訳を知っているように思えた。



「さて、どうします? イメージの希望はありますか? それとも、すべてお任せにしますか?」



吹っ切れたように高杉さんが問いかける。
首を傾げて答えを迫ると、山中さんは一瞬目を見開いてから笑った。



「イメージはさっき言った通り、この店を印象付けることと、客の目を惹き付けること。その他は二人にお任せするよ」

「そんなのイメージって言うの? ほとんどお任せじゃない」



呆れる高杉さんに私も同感。
漠然としすぎていて、何から考えていけばいいのかさえわからない。せめてもう少し踏み込んで言ってくれればいいのに。


「そろそろ帰るよ、岩倉君にも二人へのアドバイスを頼んでおいて、よろしく」



涼しい顔で帰っていく山中さんを見送りながら、仲岡さんと私は大きく溜め息を吐いた。


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